最低な眼差し

「酔っ払うとおれだめなんだよね」

この人で何人目だろう。夢の中の方がよく覚えてる気がする。

わたしがお酒を飲み始めたのは成人してからだった。それまでは親に勧められた、味がわかる程度の一口だけで、酔っ払ったこともなかった。だからあの人がそう言ったとき、まだわたしは間に受けてしまう子どもだった。顔から体中が熱くなって全てがどうでもよくなる感覚も、ずっと笑ってしまう高揚感も、今になって知った。この人のだめっていうのはきっとどうでもいいに近い。

「酔っ払ったら、いつもこんなことするの?」

「しちゃう」

「あの子とも?」

「うん」

そんなもんだよなって天井を見つめていたらまたキスされた。薄っぺらいけど寂しさを埋めるのにはちょうどよかった。

そろそろ帰ろうと二人で起き上がって部屋を出た。家まで送ってくれるらしい。彼に電話がかかってきた。

「いま帰りだからあとで合流する。ん、えーと……朝食べて行く?」

うん、と頷くと

「たぶん13時過ぎくらいになる、じゃあまたあとで」

わたしのことを考えてくれているみたいでうれしかった。あとちょっとで終わるけど、恋人みたいに手を繋いでどこ行こうって話してるのも楽しかった。

この人のことも思い出せなくなるまで寂しさは消えないし自分のこと好きになれる。でもそんなの魔法か呪いかわからない。わたし一人じゃ誰も愛せないなんて頭が空っぽで馬鹿みたい。