どこにも届かないでいい

意識しすぎて空回りするなんて何年振りだろう。彼と約束して会ったのは今日で2回目だった。初めてデートするときみたいに、前日から丁寧に準備をした。彼は友達感覚でいて、当日になって今日どうする?なんて連絡してきた。

あんなに思わせぶりなことしてきたのに。会って彼の服装を見たときにも、わたしばっかり浮かれて馬鹿みたいだと思った。どこに行くか決めずふらふら適当に歩く。緊張してわたしはずっとうまく話せなかった。彼はよく喋る人だからそれに合わせて相槌を打つだけで面白いこともかわいいことも言えなかった。お母さんに焼肉のタレを買うように頼まれたから、と夜ごはんを食べて21時には解散した。帰り道はやはり頭の中でぐるぐる反省会が止まらなかった。もっと話せばよかった、焼肉のタレに負けてしまった。結局好きな人のことを何度も聞いてしまったし、あなたには彼氏がいるからフェアじゃないと教えてくれなかった。

恋愛はめんどくさい、相手に価値を見つけるのも振り回されるのも気を使うのも無理だ、と彼は言った。もうめんどくさい女になってやる。帰り道に何度も迷った末に電話をかけた。わたしこれから独り言を言うので、と始まるまで時間がかかったけどなんとか言った。

彼氏とうまくいってないのあなたのせいです、思わせぶりなこと、わたしのことタイプだとかわたしのこと好きみたいなこと遠回しに言うし、ごはん奢ってくれるし、わたしのこと好き?って聞いてもはぐらかすし、ちょっと期待しちゃう、意識もする、今日だって緊張してた、わたしだってタイプだしいいなーって思ったけどわたしには彼氏がいるので大人しくします、じゃあね、

恋愛がめんどくさい彼が、動揺を全くしない彼が一ミリでもわたしのこと考えて困ってくれればいい。寝る前にどうしようって思ってくれればいい。電車で彼の隣に座ったとき、好きな人とキスしたいって思わないの?って聞けばよかったかな、そしたら少しは意識してくれたのかな。わたしは彼のことを好きになってしまった。