正しい終わり方を数える

これ以上傷つきたくなかった。もう吹っ切れたんだよ、すごいでしょ、とみんなに話すのは自己暗示かもしれない。年下の彼は、そんなわたしにその程度の恋だったんだね、と見透かしたように応える。そのくらい酷い人だったの。本当に好きなら、それでも追いかけてるんだよ。誰でもよかった人に言われたくない。むきになって答えたら、彼は黙ってしまった。

いつからわたしたちはこんなふうになってしまったんだろう。みんなといるときは仲良く話してるのに、二人になるとぎこちなくて黙ってしまうか、うまく言葉にならなくて喧嘩のようになってしまうかで前のわたしたちとは全く別物になってしまった。ちゃんと先のことを考えてから行動しないとだめだよ。あの人のことでそうアドバイスをしたのは彼だったのに、彼のことは何も考えずに近づいた。もっとちゃんと考えていたら、関係が続いていたのかもしれない、二人でどうでもいいことで笑えてたのかもしれない。こんなことになるならそれでよかった。大切にしようとするともう迷惑がられるから、傷ついてないふりをする。ヘラヘラすることしかできなわたしを見る彼の眼差しも他の女の子に向けるような優しさは一欠片もない。こんな人たちに心をすり減らして与えなくてもいいんだよ。好きだったかもしれないけどもうだめなんだよ。そう言い聞かせてみたけど、体の奥から彼を思い出して涙が止まらなかった。

あの日の、あのときのまま

男友達に告白された。わたしに好きな人がいると知った上で、そりゃ何されてもってわけじゃないけど、好きを搾取されてもいいんだ、とも。なにそれめっちゃ好きじゃんとふざけて言ったとき、そうだよ、と即答されてこの人は馬鹿だな、でもうれしいな、がぐるぐる混ざってお酒をたくさん飲んだ。ドライブして海に行く約束もした。わたしを追いかけてくれる人といるのは楽な反面、あの人の前にいる自分を見ているようでまた悲しくなる。

あの人のことを友達に話したら、思わせぶりなことを言って騙してたんだよ、ろくでもないやつだよ、と言われた。そうだよね、やめておくと笑って誤魔化すのも上手くなってきた。誰に話しても悪者にされるくらい、あなたは最低な人だった。それでも、少ない思い出の一つ一つを擦り切れるくらい繰り返し再生しては泣いて、あの人を好きだと思い知る。LINEもあの人にとっては暇つぶしでしかないのに、無視することもできない。この前も急に電話がかかってきた。LINEをしている最中だった。乗り換えを間違えて次の電車を待っているらしい。アナウンスが聞こえてくるたび終わるのが嫌で彼への相槌がつい小さくなる。結局10分もしないで切れてしまったけど、うれしかった。他愛もない話だったし誰でもいいのはわかってるのに。なにそれめっちゃ好きじゃん、って自分に突っ込んでみたら、また泣いてしまった。いつまでこんなことやってるんだろう。

 

 

拗ねたあなたを見て幸せだと思う

なんだかんだ1ヶ月が経つ。昨日職場で飲み会があったからか今日は夢にあの人が出てきた。付き合っているようなないような関係だったけど、今の片思いの状態より幸せで起きてすぐに忘れないように思い出した。とっくにあの人のことなんか好きじゃないと思っていた。熱しやすく冷めやすい性格でよかったとさえ思った。友達になんか冷めちゃったよねーと笑って話すわたしは本当はどう見えたんだろう。あの人と手を繋いでみたかった。抱きしめられてキスをしたかった。寂しいときや困ったときは呼んでほしい。執着より好きに一番近いのはいまだに彼だ。いまのわたしはすごくだめだ。望んでも何も返ってこないしなんなら終わってしまうかもしれないのに、好きと言ってしまいそうで。しばらく職場で会わないからまた冷めていくのをゆっくり待つ。こんな悲し気持ちもゆっくりと。

ひとりになるほうが簡単だ

頭のいい人が好きだけど、わたしは頭のいい人に嫌われるタイプだ。わかりやすい媚びうりと自信のなさからくるはりついた笑顔は自分でも鬱陶しくなる。頭の悪い年下の彼はわたしとぎこちなくキスをした。初めての経験ではないのに、何回も近づいては離れてやっとしたと思ったら、苦しそうに息を吐く。こんな姿を見てもかわいいなーと思うくらいだから、年下に好かれてしまうのだ。年上に好かれる親友だったら、そんな男冷める、とすぐに切ってしまいそう。わたしは余裕のある年上の人が好きなのに、相手のことも自分のことも許してしまう弱さはそんな人たちを遠ざけてしまう。

大人になりたかった。はっきりしないあの人の態度に、付き合わないなら他の女の子に連絡しないで、とむきになって拗ねたら、そういうところだよ、と嫌がられた。自分でも子どもみたいだと思った。あの人が好きなのはきっと、もっと自由で余裕があってあなたじゃなくても平気よ、という心構えのある綺麗な女の人だ。そうなりたかった。そしたらあの人に振り向いてもらえると思った。金曜の夜、わたしは好きでもない人とキスをした。同じ学科の男の子。気になる女の子が多すぎる、と前から話していたし、わたしに最近浮気してもいい気がしてきた、と言っていたから放課後カラオケに行った。思春期の男の子みたいだ。わたしと同じ子ども。わたしは彼じゃなくてもいいし、彼もわたしじゃなくてもいい。彼とのキスや言葉を思い出しては連絡したくなったけどやめた。執着してはだめだ。こんな関係に慣れればあの人に少しでも近づけるのだろうか。彼が欲しがる言葉や態度なら何でもわかる。どう言えば彼が照れて自分に夢中になるのか簡単に想像できるのに、あの人のはわからない。彼といるとその事実が余計に悲しくさせて、どんどん寂しくなる。もしかしたら負のループなのかもしれない。でもいまのわたしにはこれしか思いつかない。馬鹿じゃないの、とあなたが叱ってくれたらいいのに。

酔いから覚めたの、おやすみをもう一度

あなたのことがよくわかるからわたしは何もできなくなる。頭は良く回るのに身動きが取れない。そうやって何度ももうやめようと決めていた。なのに、これが最後、と終止符を打とうとするとそういう時に限ってあなたはちゃんとわたしのほうを向く。察するのが上手なのだ。二人でごはんに行こうと誘って断られたときもうわたしから連絡しないと決めたのに、その日から何度か彼から連絡が来た。わたしが彼氏と別れた、と伝えたときは、そう、なんで?と普通に返してきた。なんでこういうこと報告するのか分からない?と聞いても、さあわからないね、とはぐらかす。わかっているくせに、踏み込んでこない。わかっているからなのかもしれない。

でも、これでもう本当に最後。バイト前に30分だけ会いにいった。はっきりさせるために。会いに行ったら、移動しようと人が少ないほうに向かった。付き合おうよ、と冗談で言うわたしを嫌そうな顔でそういうの恋愛とかめんどくさい、とかわす。女なんてこの世にいっぱいいるし執着なんてしないね。笑って話す彼を最低だと思った。やはり、ひまと言えば電話にでるわたしを都合良く扱えるようにしてきたのだ。怒ってやりたかった。ふざけるな、と言ってやりたかった。はっきりさせたくなかったのはわたしのほうだった。あなたの隣にいられればなんでもいいと思っていたけど疲れた。そんなことも好きとも言えず、時間になって、またいつものように仕事仲間みたいにお疲れ様と言われて別れた。二人でいるところをバイト先の人に見られたけどどうでもいい。変に噂になっても彼ならうまくかわせる。最後くらい思ったことを言ってやればよかったという気持ちと、このくらいならまた前みたいに戻って電話したりできるかなと淡い期待が残っている。そんな気持ちもわかって、二人でごはんにいくのも嫌がるんだろう。中途半端なのはわたしのほうだった。あなたはわたしのことをよくわかっていたんだね。

 

いつだって素直になれたはずだ、あなたもわたしも

大丈夫、わたしはあなたなんかどうでもいい。

バイトがない日は好きな服を着てラメがたっぷりのアイシャドウを瞼にのせる。今日は、はっきりしたピンクのリップを久しぶりに選んだ。いつもは落ち着いた桜のようなピンクだからわくわくする。自分のための日を作る過程がすごく幸せだ。外に出て街を歩いてもいつもと違う。周りの目なんか気にならない。颯爽と高いヒールで進む。怯まずどこまでも行ける気がする。なんだ大丈夫、わたしはあなたがいなくたって一人で幸せになれる。

一昨日、3日ぶりに返信がきた。既読無視していたらまたLINEがきた。それだけでうれしくなった。それにその日は返信が来るのが早かったしバイトで嫌なことがあって、なんとなく電話をかけてみたが応答はなかった。次の日、相変わらずの冷たさで返信が来る。返信をするだけ彼にしては珍しいのだ。素直に、バイトで疲れちゃって話したかったと伝えたら、笑笑としか来なかった。

彼は、めんどくさいことが大っ嫌いだ。ましてや社員ならまだしもバイト仲間の相談事なんて、彼にとって利益がない。本当は冷たいからこそへらへらといろんな人と話し優しくするのだ。わたしにはどんどん冷たくなっていく。前に、わたしが彼氏と喧嘩してデートをやめたと伝えたら電話がきたことがあった。何やってるんだよ、と怒りながらも会いに来てくれた。彼のバイトが始まるぎりぎりまで一緒にいて、泣きそうで話せないわたしに今週ごはんに行こうと言ってくれた。大事にされてると思った。あれは夢だったのだろうか。反芻しては甘さに比例してどんどんつらくなる。そのごはんだって結局後輩の男の子も連れて3人で行った。

彼に振り回されるのはもうごめんだ。やる気のない返信は既読無視した。もしかしたらかけ直してくるかもと深夜まで起きてみたけど何もなかった。深夜の1時くらいまでなら平気でかけてくるひとだった。それくらいまで起きれるようになったのに、夜の静けさに寂しいと思う時間が増えただけだ。

今日は、それでももう平気だと思えたはずだった。誰かもわからない人とすれ違った。柔軟剤の匂いがあっという間に強気なわたしを殺す。あなたに似た匂いだった。

観覧車のてっぺんで恋に落ちた

一度きりの夜だと思い知った。あのとき、夜の電車で、向かいに人がいない小さな席で隣に座ったときキスしてしまえばよかった。酔ったっと適当なことを言って手を絡ませればよかった。彼氏がいるのに、彼とキスしたいとかいろんなことを望む時点で最低なのだから、こんなことになるならあのときわたしは彼と。

初めて二人で飲んだとき、彼はわたしのことをラブホに案内した。下手くそな誘い方で、誘われてると気付かず結局周りのカップルを冷やかしただけだった。彼だって何か起こしたかったのかもしれない。ただ理由が足りないとお互いに思っていたのだ。まだ知り合って数週間しか経っていないのに、相手を望むのはおかしいと理性が残っていた。馬鹿になれたら、あのときのわたしたちが一番ベストなタイミングで一つになれたと思う。

次こそは、と決めてからわたしはいつもの悪い癖で距離感を守らず仲良くしようとしまって、だめになってしまった。好きと言ったわけじゃないし言われたわけでもない。静かに火が消えるように、彼はわたしに飽きてしまったのだと思う。たいしたことは何も起きなかった。とことん最低になる勇気もなく、わたしは生まれて初めて失恋した。大人になって好きな人とうまくいかないのは初めてだ。気をぬくと、すごく好きだったと思い出してしまいそうになる。何も起こらなかったのがただただ悲しいし一生悔やんでいくと思うと彼とのことを全部忘れたくなった。それでもこうやって日記にして寂しい時は読み返して甘かった時間に浸るほど、なかったことにしたくないしできないでいる。好きだったけどもう大丈夫と思える日と、彼とまた仲良くなる日はどっちが早いんだろう。